NTT docomoの研究者による次世代携帯電話システムの講演を聴講しました

ICTで地域の活性化を目指しているHIT Teamたねちゃんは、2015年12月7日(月)には、モバイル技術と地域おこしの融合の勉強のため、八戸工業大学工学部電気電子システム棟にて行われた「次世代モバイル通信5Gの最新研究開発動向」と題した講演会を聴講しました。

今回の講師は株式会社NTTドコモ 先進技術研究所 5G推進室 5G方式研究グループリーダ 主幹研究員で奈良先端科学技術大学院大学の教授も兼任されている奥村幸彦先生で、司会は電気学会東北支部青森支所長を務めている花田一磨先生です。HIT Teamたねちゃんメンバーも5人もの学生が次世代ICTの勉強のため講演会に参加しました。

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奥村先生は第3、4世代携帯電話システムの開発を歴任され、現在は第5世代携帯電話システムの開発をされていると共に、3GPP 第3世代(3G)移動体通信システムの標準化プロジェクトにて、日本国を代表して各国の代表と第4および5世代携帯電話に使われるシステムや、さらに高い周波数帯の標準化の交渉を行っているとても凄い人です。

講演内容としては、まずは携帯電話の第1世代から現在、さらには未来までの変遷についてです。第1、2世代までは日本の独自システムでしたが、第3世代からは標準化されて世界共通で使えるようになりました。

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現在の携帯電話システムは4G(第四世代)と呼ばれ、3.9GのLTEからさらにキャリアアグリゲーションやMIMOなどを追加し発展させたLTE-Advancedとして、全国に展開しているそうです。さらにスモールセルやC-RANアーキテクチャの導入により、より高速かつ高効率なモバイルインターネットアクセスを目指しているとのことです。

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高度化C-RANの特徴としては、信号処理部を根元に一元化しているため、マクロセル、マイクロセル、フェムトセル間を端末がハンドオーバーしても極めてスムーズな通信が実現できることです。これにより山の手線内でも高い実効速度を実現できます。

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5Gが目指す性能要件は大容量、超高速に留まらず、IoT(Internet of Things)を見越した超大量デバイスからの接続の対応と省電力と低コスト化、遠隔医療などにも応用可能な1mS程度の超低遅延の実現など多岐にわたります。

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これらの開発の加速と実現のため、世界の主要な無線データ通信の国際会議で議論がなされており、docomoも日本の代表として提案などを行っています。

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さらに飛躍したモバイルインターネットの発展のためには従来のLTEの枠組みにとらわれず、新しいRadio Access Technology, New RATも検討がなされています。

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また、5Gの要求条件を満たすためには複数の技術を組み合わせる必要があり、たとえば従来の周波数領域での直交変調だけでなく、時間領域での変調も考慮したシステムも検討されているとこのとこです。

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これらの要素技術の一例としてMassive MIMO技術があります。マッシブには大規模、沢山という意味があり、空間での伝送ストリーミングを多重化するだけでなく、多素子アレーアンテナによりビームを狭め伝送距離も伸ばし、ビームフォーミングにより基地局と端末間との効率的な電波伝搬を実現することができるそうです。

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たとえば街中に配置したスモールセルと端末が狭ビームでデータのやり取りを行うことでスループットの向上を目指します。

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マッシブMIMOでは多素子のアンテナを配置するため、波長と素子間隔の関係からマイクロ波・ミリ波などより高い周波数を用いる必要がありますが、自由空間での伝搬損失は周波数に比例して大きくなる性質があります。しかし多素子でビームを狭めることにより、実際にはオムニアンテナなど低利得なアンテナを用いた場合よりも伝搬距離を伸ばすことが可能になります。

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これらを応用することで、たとえば過疎地や山間部でも、従来はマクロセルから道沿いにある程度ビーム幅を狭めて放射していたものを、マクロセルのアシストを受けながら道沿いに設置されたスモールセルが、ビームフォーミングにより端末とのより高効率な接続を実現できるそうです。私は連れの実家が青森市浪岡の山間にあるため、この話はより現実的なものとして聞くことが出来ました。

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また、マッシブMIMOは基地局-端末間の接続に留まらず、従来は光バックボーンやエントランス回線が担っていたバックホールリンクとしても使用できる可能性を秘めています。

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さらに先ほども述べたように、より柔軟な接続を実現するため、直交多重だけでなく時間領域での変調も考慮した非直交多重NOMAへの対応も検討中です。

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一方、マイクロ波・ミリ波など周波数が高く波長の短い電磁波の移動体通信としての商用利用はまだほとんど行われていないことから、建物での粗面散乱や樹木損、降雨減衰、人体遮蔽損など、シミュレーションや実測で実際のシチュエーションを仮定して解明していく必要があります。

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これら実際の街中などでの電波伝搬やシステムの状況、ネットワークの状態をすべて含めた形で通信速度や遅延などを一元的に可視化した状態で確認できるシミュレータをNTTドコモで開発し、様々な分野で利用しています。都市部の一例として、新宿でスマートフォンなどを用いて動画ストリーミングを受信している時の状況をシミュレーションした結果が以下の図で、LTE-Advancedや5Gを想定した通信状況の確認を目指しています。

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これは、2020年のオリンピックなどを想定した5Gによる大規模人数を収容した施設での快適なモバイルネットアクセスを実現するためのシステムの実現構想です。数万人規模の観客が一斉に携帯電話回線にアクセスし動画のダウンロードを行えるような検討を行っています。この様に、NTT docomoではオリンピックを一つの区切りとして、各国から来日されるお客様に日本の無線通信技術の優位性をアピールすべく、大きな目標を持って研究開発に取り組んでいるとのことです。

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さらに、これらを実現するためには世界の各企業との協業が必要で、以下の図のパートナーとともに次世代技術の開発にあたっていくとのことです。

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私は去年も奥村先生のご講演を八戸工大で聞いていますが、まずスライドや講演内容が去年とまったく異なることにびっくりしました。また、昨年度にも提案されていて、その時にはこんなの本当に実用になるのかなぁと思いながら聞いていたマイクロ波帯のマッシブMIMOシステムがすでに実用化のためのさまざまな実証試験が行われており、実現可能性の極めて高いものであると知ったことです。

ICTはハードウェアも含め、極めて開発進捗の早い世界であることを実感しました。さらに、奥村先生のご講演を聞いていると、ご講演で提案されているシステムが5年、10年後には確実に実現されているのではと確信できるようにもなりました。

質問タイムでは、モバイルインターネットで色々と出来るようになるとアプリケーションとしてのアイデアが大事で、それらのアイデアの発掘を考える土壌を育成するため、NTT docomoとしてアイデアソンやハッカソンを企画運営しているとのことでした。

ちなみに私は10年くらい前に報道2001という番組における政策の説明で、元マッキンゼーで自民党に所属されている茂木敏充さんが使っていた、三段ロケットという言葉が好きです。1段目、2段目と燃料が充填されたブースターで加速して、燃料が空になったらそれらのブースターは外し、衛星となって次のフェーズに進んでいくというのは、どの世界でも飛躍するために行われる手法ということでしょか?

今回の奥村先生のご講演では、携帯電話システムの未来だけでなく、将来に渡って生き残っていけるグローバルな視野での仕事への取り組み方についても教えて頂き、このことについて深く考える良いきっかけとなりました。